大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和37年(モ)1435号 決定 1962年7月16日

申立人 久保田光男

主文

本件忌避申立を却下する。

理由

申立人が本件忌避の原因として主張するところは、別紙のとおりであつて、要するに、申立人が忌避の対象とした三裁判官によつて構成される裁判所の訴訟手続上の措置の違法ないし不当をいうものにすぎない。

ところで、裁判所または裁判官の訴訟手続上の措置であつても、訴訟法規の定めるところから顕著に違反し、または、法規上あたえられた裁量の範囲を著しく逸脱する結果、ひいて、当該裁判官または当該裁判所を構成する裁判官につきその裁判の公正をさまたげるべき事情が存することをうかがわせるにたりる客観的合理的事由のあるときは、たんに訴訟手続上の措置の違法または不当を指摘し、これを立証するにすぎないことをもつて、忌避の原因の疏明にあたらないものということはできないが、これに反し、右のような客観的合理的事由の存しないときは、忌避の申立は、その原因の疏明を欠くものとして、却下をまぬかれないものというべきである。

本件についてみるに、申立代理人が忌避原因疏明書と題する書面で述べるところは、記録添付の本訴(当庁昭和二七年(行)第三一号の一)口頭弁論調書(昭和三七年六月一一日午後一時)と対照するときは、おおむね訴訟手続に関する申立代理人の独自の見解にすぎず、その指摘にかかる裁判所または裁判官の訴訟手続上の措置は、当該裁判所または裁判官にあたえられた訴訟手続上の裁量の範囲に属するものと解せられ、訴訟手続上の措置の違法ないし不当があつたことを立証するにたりる疏明としても不十分であるばかりでなく、いわんや、当該裁判官または当該裁判所を構成する裁判官につき、その裁判の公正をさまたげるべき事情が存することをうかがわせるにたりる客観的合理的事由は、なんら認められないものというほかない。

したがつて、本件忌避の申立は、結局、その原因の疏明がないことに帰するから、却下すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 寺田治郎 鈴木弘 坂詰幸次郎)

別紙

忌避原因疏明書

一、序説

開廷冒頭裁判長は構成に変更あり弁論を更新すると宣言した原告代理人は農業委員会等に対する法律の附則によれは本件被告大阪府農業委員会に対する訴は大阪府知事に受継かれた則同知事の訴訟委任状は提出され居るかと裁判長に伺ふた処未だ無しと云ふ仍て同会の代理人たる堀川弁護士に右委任状を提出するかと確めた処出さぬと笞ふ

其処で裁判所は合議の上か裁判長より裁判所は右委任状は不要なりと認むと宣言した

仍て原告代理人は陪席裁判官野田氏の下に更新されるならは請求趣旨の更正買収売渡の無効理由の説明の為口頭弁論期日の続行(延期)を求めた

裁判長は被告代理人に対し弁論は従来調書の通りかと問ひ同人は然りと答へた原告は従来の調書の通りに非す次回に具体的主張する旁続行を求めた

二、忌避申立

以上の審理過程の下に於て裁判長前田裁判官は突如本件は之て結審すると宣告した

之に対し原告代理人は

イ 期日変更の決定を為さぬ裁判長の訴訟指揮に対し異議の申立を為し

ロ 三裁判官には公正を疑ふに足る事情ありとし之を忌避する旨申立た

以上の次第て

A 原告代理人に於ては更新宣言後本案に付き一言も口頭弁論を行い居らす

B 被告大阪府農業委員会に付いては大阪府知事は自ら又は訴訟代理人をして右口頭弁論に出頭せしめす

C 原告代理人の右異議申立に付いては民事訴訟法第百二十九条の決定を行はす

D 本案につき旧民事訴訟法及慣習及条理上認められる法律上事実上の口頭弁論の機会を与へさることは当事者口頭弁論主義の我民事訴訟法上重大なる非違てある

右民事第三部は前年来原爆的暗打式結審を敢行して得々たるものあり

按するに同部は前に本件と同種の事件に於て永小作権は耕作する小作人に非す故に自創法に於ける農地売渡の無効又は取消を主張する権利なし訴自体却下すべきものなりとの判決(之に対する控訴事件卅二年(ネ)第八三五号事件)と同様証拠調を要せずして訴却下せんとの合議か右期日以前に三裁判官間に成立して居つたので新に配置された野田裁判官か原告代理人の請求原因及請求趣旨の更正を聴く迄もなし結審の合議に同意したものと思惟するの外なし

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例